ファッションから自然へ

 子どものころから洋服が好きだった北海道出身のPalaina L.O代表デザイナーである稲垣は、アパレルの世界で人々を「幸せにしたい」という夢をかなえるべく服飾系の短大に進学。

 短大で基礎をみっちり叩き込まれたあと専門学校でスタイリングを学び、夢だった東京のアパレルブランドに就職が決まりました。時代の最先端を行く東京の職場で、ファッション一色の生活を始めたのです。

 しかし、自然豊かな北海道で生まれ育った稲垣にとって、東京での消費するだけの生活はあまりにも違いすぎました。心がどんどん疲弊し、ある日突然物欲がなくなったのを感じたのです。心と身体のバランスが崩れてしまったことで現れた症状でした。

 

 ちょうどそのころ、沖縄旅行の計画が友人の仕事の都合でキャンセルに。

「それならいっそ、一人で長期滞在しよう!」

 ガイドブックにある宿の索引の”あ”から順に電話し、「バイト募集してますよ!」という民宿を見つけて住み込み生活を始めました。

 滞在の間、北海道の自然とはまた違う照り付ける強い日差しや、見るたびに変わる南国の海の色。色とりどりの花々から、さまざまな刺激を受けました。沖縄から小笠原、また沖縄へと場所を変えつつ飽くほどに眺めた自然の風景は、心の奥底に強く刻まれています。

 

受け継いで使うという「豊かさ」

 自然と自由を満喫するなかで、出会いを経て出産を経験。3人の子どもに恵まれました。

 友人から子どもの「おさがり」をもらうという経験から、消費するだけではないライフスタイルがあるのに気づきました。大切に使っていたものを、受け継いで使う。その考え方が、生活をとても豊かにしてくれると感じたのです。

 シングルマザーとして北海道に戻り、子育てに奮闘するなか、知り合いから大量の着物を譲り受けることになりました。

 その着物にあしらわれた文様や柄の美しいこと!

 そのとき、デザイナーの経験があったからこそ、その生地を使ってバッグとして仕立て直すことができました。

 当時、アップサイクルという言葉は知りませんでしたが、古いものをより価値のある新しいものに生まれ変わらせる。そんな感覚が芽生えたのです。

 大切にしてきたものや、価値がなくなり捨ててしまうものに

新たに命を与える…

そんなものづくりを始めたのは、この時からでした。

 

アップサイクルを「ブランド」へ

子どもたちが大きくなって手が離れたら、自分の手で何かを作る仕事がしたい。

 長い間、そう思っていた稲垣がついに出会ったのが、同じく北海道出身で、のちにPalaina L.Oの代表となる木村。木村は服飾の専門学校を卒業後、スーツメーカーでアパレル生産・販売のノウハウを身に着けてきた叩き上げです。

デザインが専門の稲垣にとって、この出会いは願ってもないことでした。

 2人でブランドを立ち上げることになり、考えたのは「どんなブランドを目指すのか」。ブランドとして、私たち2人に何ができるだろう?

 その時、アパレル時代の想いと子育て中の気づきがよみがえりました。

「おしゃれでかっこいいモノを作る」というファッション永遠のテーマと、「生活を豊かにすること」を両立させたブランドができるのではないか。

 そして共に浮かんできたのが、子どもの頃の北海道、そして長期滞在した沖縄や小笠原の海でした。

 同じ海でもさまざまな表情があり、違う海ならなおのこと。

その多種多様な色合いや奥深さを表現できる素材を考えたときに

デニム、それも古着のデニムに行きついたのです。

 古着デニムの新品にはない味わい深さをうまく使えば、古いものをより価値のある新しいものに生まれ変わらせて、”消費する”だけでない「新たな命をつなぐ製品」が製作ができるに違いない!

 

 私たちのブランドコンセプト、「Upcycling(アップサイクリング) Fashion Brand」は、こうして生まれました。

 ブランド名の”Palaina”は、古代ギリシア語で蝶の羽やクジラの尾が広がる様子など「ふたつに分かれているもの」を意味する幸運の象徴、”L.O”はLast Oderの頭文字。「最後にまた買いたくなる」ブランドになるように、という願いを込めてつけています。